トピックス
2012.12.21

借地ー借地契約の更新拒絶の正当事由について

事例

A土地の地主Xさんは、パンの製造業者であり、営業上工場の拡大が不可欠な状態であるが、新規に土地等を取得するほどの資金的余裕がありません。またXさんは、パン工場の拡大を図るならA土地以外にないと考えており、それが営業上もベストな立地条件のようです。

一方借地人のYさんは、10年前からA土地を賃借しており、既製服製造卸売り業者であり、A土地で工場を営んできました。Yさんは、10年間この工場を営んできて、A土地周辺を基盤として得意先を有しており、経営もそこそこうまくいっています。しかしながら、工場が多少手狭になってきたこともあり、近隣に適当な工場用地がありそうな状況なので、工場を移転しようかと時々考えていたところです。

Xさんとしては、多少の立ち退き料を支払ってでも、近く期間満了となるYさんとの借地契約の更新を拒絶し、A土地で自身のパン製造工場を営みたいと考えていますが、かかる更新拒絶に正当事由が認められるか考えてみましょう。

 

正当事由の内容

XYの借地契約は、10年前からあるようですから、借地借家法ではなく、旧借地法の適用になると思われますが、契約の更新拒絶に正当事由が必要であることに変わりはありません。

この正当事由の内容は、借地借家法によって、より具体的に定められていますので、これが旧借地法適用の場合でも参考になるでしょう。借地借家法では、更新拒絶のためには、

①賃貸人及び賃借人が土地の使用を必要とする事情

②借地に関する従前の経緯

③土地の利用状況

④賃貸人が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引き換えに借地人に対して財産上の給付(いわゆる立ち退き料等)を申し出た場合のその申し出を考慮して、正当事由を判断するものと規定していますので、本件でもこれらの要素を総合的に考慮することになるでしょう。

なお、①~④の判断要素には、主従があり、①が主たる判断要素、②~④は、従たる要素と考えられます。したがって、そもそも①の賃貸人の土地使用の必要性がなければ、その他の②~④の従たる要素を具備しても、正当事由は認められそうにありません。

 

本件の場合

本件においては、①A土地の使用を必要とする程度においては、Yよりも地主Xの方が勝っているのではないでしょうか。したがって、主たる要素は具備していそうです。②の従前の経緯は、事例ではよく分かりません。③土地の利用状況という点においては、Yは、現にA土地で既製服の製造卸業を営んでおり、A土地周辺を基盤として得意先も持っており、経営もそこそこうまくやっている、ということですから、Xにとっては、あまり有利な要素とはならないでしょう。

そこで問題となってくるのが、④Xが支払っても良いと考えている、立ち退き料の額です。かかる場合の立ち退き料の算定は、さまざま考えられるでしょうかが、少なくともA土地の借地権価格(借地法により保護された借地を使用収益することにより借地人に帰属する経済的利益を表示した金額)やYの営業補償(工場移転によりYが被る営業上の不利益の補償)、工場の移転費用等が問題になることでしょう。

結局Xが、Yに対して、いくらの立ち退き料を提示できるかが、重要な要素となることでしょう。ただ、Xとしては、新たな土地等を取得するほど資金的余裕がないから、A土地の契約更新の拒絶をするわけですから、Yに対して過大な立ち退き料を提供するわけにもいかないことでしょう。またYとしては、近隣に適当な工場用地がありそうな状況なので、工場を移転しようかと時々考えていたというのですから、Xとしては、このあたりも考慮してもらいたいところです。

結論として、本件の場合、XがYに対して相当の立ち退き料の提供を行った場合、契約更新拒絶に正当事由が認められる可能性がある、といったところでしょう(相当の立ち退き料とはいくらなのかは難しい問題です。)。

もっとも、立ち退き料の点で、XとYが合意に至れば、借地契約は合意解除できることはもちろんです。

2012.12.20

借家ー敷金返還と原状回復義務について

借家契約が終了する際には、借家人は借家を原状に回復をした上で、家主に返還、すなわち借家を明け渡さなければなりませんし、家主は、借家人から預かっていた敷金等を精算しなければなりません。この原状回復義務と敷金返還について考えてみましょう。契約によっては、敷金ではなく保証金であったり、礼金・権利金を家主に差し入れている場合もありますので、その違いも検討しなければなりません。

 

敷金

敷金とは、賃貸借契約上の賃借人の未払い賃料や原状回復費用等の債務を担保する趣旨で、賃借人が賃貸人に交付する金員で、賃貸借契約終了の際、これらの賃借人の債務を差し引いても残額がある場合は、当然返還されるべきものです。

 

権利金

権利金は、その性質が一義的ではありませんが、権利金の性質は、

  • 営業上の利益や場所的利益の対価
  • 賃料の一部前払い
  • 賃借権に譲渡性を付加する対価
  • その他

後述の礼金と同じ趣旨のこともあるようです。

権利金は、原則として、賃借人への返還が予定されていない点に特徴があります。但し契約上の賃貸借期間の満了前に契約が終了した場合には、賃借人は権利金を交付したかわりの利益を十分に享受していないと考えられるため、権利金の一部返還が認められる可能性があるでしょう。もっとも、③④の趣旨で交付された権利金が返還されることはないものと考えられます。

 

礼金

礼金は、一般的な住宅の賃貸借契約において権利金と呼ばれているものと同じです。その金額が低額な場合は、法的には賃貸人への謝礼(贈与)の趣旨か原状回復費用の前払いの趣旨かと思われます。したがって、かかる礼金は賃借人に返還されないでしょう。

 

保証金

保証金とは、ビルやマンションの賃貸借に際し、賃借人が支払うもので、一定期間据え置き後分割返還するとか、賃貸借契約終了時に一定額を差し引いて返還するとかの特約がなされているのが通常です。
保証金の法的性質についても、一義的には決められませんが、

  1. 建設協力金
  2. 貸金
  3. 敷金
  4. 期間途中に解約になった場合の空室損害補償
  5. 権利金等の性質

が混在していると考えられます。

 

敷金等の自動控除特約

賃貸借建物明け渡しの際、当然に敷金等の何割かを控除しその残額を返還する旨の特約が結ばれることがあります。いわゆる敷引き特約(自動控除特約)と呼ばれるものです。

その趣旨は、家屋の賃貸に伴う通常の損傷に関する原状回復費用に充当するものと考えられますが、具体的には、

①家屋の賃貸に伴う通常の損傷に関する原状回復費用は、本来家主が負担すべきだが、これを借主の負担とする趣旨、

②原状回復費用は契約終了時に具体的に計算し判明するはずだが、敷金等の何割かを差し引くという事前の合意で簡便化をはかる趣旨が考えられます。

判例は、かかる敷引き特約の有効性について、個別のケースごとにその合理性等から判断していますが、一般的には敷引き特約を有効と判断しているものが多く、不合理な特約である場合等にその特約の全部または一部を無効として取り扱っているようです。

 

原状回復につき特約がない場合の原状回復

前述のように賃借人は、賃貸借契約終了の際には、賃借物を原状に回復した上で賃貸人に返還、すなわち明け渡しを完了しなければならず、その後でなければ、敷金等の返還を受けることが出来ません。原状回復の内容について、契約に特約がない場合を考えてみましょう。

「原状に回復する」とは、賃借人が設置したものを取り除くという趣旨であり、借りた当時の賃借物の状態を復元することとは違います。したがって、通常の使用によって古くなった物の交換をするなどの義務は、本来ありません。

しかしながら、賃借人には、善良な管理者の注意義務(善管注意義務)をもって賃借物を保管する義務も負っていますから、故意や過失で賃借物を毀損してしまった場合には、毀損部分の損害を賠償する義務があります。

したがって、賃借人が原状回復義務や善管注意義務に違反して損害賠償義務を負っている場合は、敷金等からこれらの賠償額が控除されて残額が返還されることになります。

逆に、賃借物の通常使用に伴う時間的経過による損耗(自然的損耗、たとえば畳、ふすま、障子やじゅうたんの時間的経過による損耗、結露や湿気による壁のクロスの汚損など)については、賃借人は責任を負わないという結論になるでしょう。

ただし、前述のように、契約に敷金等の自動控除特約がなされている場合で、それが有効と認められる場合、自然的損耗の原状回復費用は、敷金等の控除分によって填補されるでしょうから、結局賃借人が負担している結果となりますが・・・。

 

 

特約がある場合の原状回復

それでは、たとえば契約書に「賃借人は、契約終了時、畳、ふすま、障子を全部張り替え、壁のクロス、じゅうたんもすべて取り替えを行い、その費用全額を負担する。」など一切の原状回復義務を賃借人に負わせる趣旨の特約があった場合はどうでしょう。

まず、故意過失を問わず、一切の原状回復義務を賃借人に負わせる特約があっても、大修繕に該当する部分(壁のクロスやじゅうたんの取り替えなど)については、これを賃借人の責任とするのは、賃借人に酷なのでかかる特約部分は無効でしょう。

小修繕に該当する部分(畳、ふすま、障子の張り替えなど)の特約部分についてですが、かかる特約が無効とまでは言えないかも知れませんが、特約によって回復すべき汚損、毀損等には、自然的損耗は含まれないという判例もありますから、かかる特約があっても自然的損耗があるにすぎない畳やふすま、障子などを賃借人が全部張り替えなければならない結果にはならないものと思われます。

ただ、かかる特約によって賃借人が負担する原状回復の範囲については、賃料その他の賃借条件等を総合的に検討しなければ、即断は出来ないので注意が必要です。

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