
弁護士法人 関西はやぶさ法律事務所
〒520-0051 大津市梅林1丁目15番30号 林ビル本店2階
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借家契約が終了する際には、借家人は借家を原状に回復をした上で、家主に返還、すなわち借家を明け渡さなければなりませんし、家主は、借家人から預かっていた敷金等を精算しなければなりません。この原状回復義務と敷金返還について考えてみましょう。契約によっては、敷金ではなく保証金であったり、礼金・権利金を家主に差し入れている場合もありますので、その違いも検討しなければなりません。
敷金とは、賃貸借契約上の賃借人の未払い賃料や原状回復費用等の債務を担保する趣旨で、賃借人が賃貸人に交付する金員で、賃貸借契約終了の際、これらの賃借人の債務を差し引いても残額がある場合は、当然返還されるべきものです。
権利金は、その性質が一義的ではありませんが、権利金の性質は、
後述の礼金と同じ趣旨のこともあるようです。
権利金は、原則として、賃借人への返還が予定されていない点に特徴があります。但し契約上の賃貸借期間の満了前に契約が終了した場合には、賃借人は権利金を交付したかわりの利益を十分に享受していないと考えられるため、権利金の一部返還が認められる可能性があるでしょう。もっとも、③④の趣旨で交付された権利金が返還されることはないものと考えられます。
礼金は、一般的な住宅の賃貸借契約において権利金と呼ばれているものと同じです。その金額が低額な場合は、法的には賃貸人への謝礼(贈与)の趣旨か原状回復費用の前払いの趣旨かと思われます。したがって、かかる礼金は賃借人に返還されないでしょう。
保証金とは、ビルやマンションの賃貸借に際し、賃借人が支払うもので、一定期間据え置き後分割返還するとか、賃貸借契約終了時に一定額を差し引いて返還するとかの特約がなされているのが通常です。
保証金の法的性質についても、一義的には決められませんが、
が混在していると考えられます。
賃貸借建物明け渡しの際、当然に敷金等の何割かを控除しその残額を返還する旨の特約が結ばれることがあります。いわゆる敷引き特約(自動控除特約)と呼ばれるものです。
その趣旨は、家屋の賃貸に伴う通常の損傷に関する原状回復費用に充当するものと考えられますが、具体的には、
①家屋の賃貸に伴う通常の損傷に関する原状回復費用は、本来家主が負担すべきだが、これを借主の負担とする趣旨、
②原状回復費用は契約終了時に具体的に計算し判明するはずだが、敷金等の何割かを差し引くという事前の合意で簡便化をはかる趣旨が考えられます。
判例は、かかる敷引き特約の有効性について、個別のケースごとにその合理性等から判断していますが、一般的には敷引き特約を有効と判断しているものが多く、不合理な特約である場合等にその特約の全部または一部を無効として取り扱っているようです。
前述のように賃借人は、賃貸借契約終了の際には、賃借物を原状に回復した上で賃貸人に返還、すなわち明け渡しを完了しなければならず、その後でなければ、敷金等の返還を受けることが出来ません。原状回復の内容について、契約に特約がない場合を考えてみましょう。
「原状に回復する」とは、賃借人が設置したものを取り除くという趣旨であり、借りた当時の賃借物の状態を復元することとは違います。したがって、通常の使用によって古くなった物の交換をするなどの義務は、本来ありません。
しかしながら、賃借人には、善良な管理者の注意義務(善管注意義務)をもって賃借物を保管する義務も負っていますから、故意や過失で賃借物を毀損してしまった場合には、毀損部分の損害を賠償する義務があります。
したがって、賃借人が原状回復義務や善管注意義務に違反して損害賠償義務を負っている場合は、敷金等からこれらの賠償額が控除されて残額が返還されることになります。
逆に、賃借物の通常使用に伴う時間的経過による損耗(自然的損耗、たとえば畳、ふすま、障子やじゅうたんの時間的経過による損耗、結露や湿気による壁のクロスの汚損など)については、賃借人は責任を負わないという結論になるでしょう。
ただし、前述のように、契約に敷金等の自動控除特約がなされている場合で、それが有効と認められる場合、自然的損耗の原状回復費用は、敷金等の控除分によって填補されるでしょうから、結局賃借人が負担している結果となりますが・・・。
それでは、たとえば契約書に「賃借人は、契約終了時、畳、ふすま、障子を全部張り替え、壁のクロス、じゅうたんもすべて取り替えを行い、その費用全額を負担する。」など一切の原状回復義務を賃借人に負わせる趣旨の特約があった場合はどうでしょう。
まず、故意過失を問わず、一切の原状回復義務を賃借人に負わせる特約があっても、大修繕に該当する部分(壁のクロスやじゅうたんの取り替えなど)については、これを賃借人の責任とするのは、賃借人に酷なのでかかる特約部分は無効でしょう。
小修繕に該当する部分(畳、ふすま、障子の張り替えなど)の特約部分についてですが、かかる特約が無効とまでは言えないかも知れませんが、特約によって回復すべき汚損、毀損等には、自然的損耗は含まれないという判例もありますから、かかる特約があっても自然的損耗があるにすぎない畳やふすま、障子などを賃借人が全部張り替えなければならない結果にはならないものと思われます。
ただ、かかる特約によって賃借人が負担する原状回復の範囲については、賃料その他の賃借条件等を総合的に検討しなければ、即断は出来ないので注意が必要です。
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